就業規則・社内ルール

カスタマーハラスメント対策を就業規則に盛り込む方法|従業員を守る条項整備の実務ポイント

顧客からの過度なクレームや威圧的な言動に従業員が一人で対応せざるを得ない状況は、メンタルヘルス不調や離職につながるリスクが高まります。就業規則にカスタマーハラスメント(カスハラ)対策の条項を明記し、会社として組織的に守る仕組みを整えることが、従業員の安心と職場の安定につながります。

更新日:2026-08-25

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カスタマーハラスメントとは何か、なぜ就業規則に明記が必要か

カスタマーハラスメントとは、顧客・取引先・利用者などから受ける著しく迷惑な言動のことです。具体的には、長時間の怒鳴りつけ、土下座の強要、SNSでの誹謗中傷の示唆、店舗への繰り返し来訪による業務妨害、過度な謝罪や金銭補償の要求などが該当します。これらは従業員に強いストレスをかけ、適応障害やうつ病などのメンタルヘルス不調を引き起こす原因となります。

就業規則にカスハラ対策を明記することには、二つの意味があります。一つは、会社が従業員を守る姿勢を組織として公式に示すことです。もう一つは、対応の線引きを社内外に明確にすることです。規則がなければ、現場の担当者は『どこまで我慢すればよいのか』という判断を一人で抱え込まざるを得ません。条項として言語化することで、現場が動ける根拠が生まれます。

厚生労働省が2022年2月に公表した『カスタマーハラスメント対策企業マニュアル』でも、就業規則や内規への明文化は対策の基礎として位置づけられています。また、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(労働施策総合推進法)第30条の2に基づくパワーハラスメント防止措置義務は、2020年6月(中小企業は2022年4月)から適用されています。さらに2025年6月11日に公布された改正労働施策総合推進法(令和7年法律第63号)により、カスタマーハラスメント対策は事業主の措置義務となり、2026年10月1日から施行されます(施行期日を定める令和8年政令第17号)。企業規模による経過措置は無く、すべての事業主が方針の明確化と周知・啓発、相談体制の整備、事後の迅速かつ適切な対応などを必ず講じなければなりません。規則への明記は、この措置義務に対応する実務の中心になります。

就業規則に追加すべき条項の文例と盛り込み方

カスハラ対策を就業規則に追加する場合、既存のハラスメント禁止条項を補完する形で独立した条を設けるか、服務規律・職場環境整備の章に追記する方法が一般的です。以下はひな形の一例です(就業規則は社内の実態に合わせて作成し、最終的には社会保険労務士等の専門家に確認を依頼することをお勧めします)。 【条項例】第◯条(カスタマーハラスメントへの対応) 会社は、顧客、取引先その他の第三者から従業員に対して行われる著しく迷惑な言動(以下「カスタマーハラスメント」という)から従業員を守るために必要な措置を講じる。 1 従業員は、カスタマーハラスメントを受けた場合、上長または所定の相談窓口に速やかに報告しなければならない。 2 会社は、報告を受けた場合、事実を確認し、組織として対応する。従業員が単独で対応することを強制しない。 3 会社は、カスタマーハラスメントに関する相談を行った従業員に対し、不利益な取扱いを行わない。

条項を設ける際のポイントは三点です。第一に、カスハラの定義を自社の業種・業態に合わせて具体的に書くことです。『著しく迷惑な言動』という文言だけでは現場が判断しにくいため、別途対応マニュアルで例示します。第二に、報告義務を従業員側に課すと同時に、会社側の組織対応義務を明記することです。報告したのに放置されたという状況を防ぐ設計にします。第三に、報告した従業員への不利益取扱い禁止を明文化することです。『クレームを上司に報告すると評価が下がる』という心理的障壁を制度側から取り除きます。

対応フローの整備と相談窓口の設置手順

就業規則に条項を設けた後、実際の対応フローを別途文書化することが重要です。フローは次の四段階で整理すると現場で使いやすくなります。 ①発生時の初動:担当者一人での対応を原則禁止とし、上長または別の担当者が同席または引き継ぐルールを決めます。電話対応の場合は録音の可否と方法を事前に決めておきます。 ②記録:日時・言動の内容・対応者・結果を所定の様式に記録します。記録は証拠としての役割も持ちます。 ③報告・判断:記録を上長・人事担当者へ共有し、組織として対応方針を決定します。法的手段(弁護士への相談・警察への相談)の要否もこの段階で検討します。 ④ケア:対応した従業員のメンタルヘルス状態を確認し、必要に応じてEAPや産業医面談につなぎます。

相談窓口は、外部委託(弁護士事務所・EAP機関)と社内設置の二種類があります。中小企業では専属の人事部門を置くことが難しい場合も多いため、信頼できる上長を窓口として明示しつつ、外部の無料相談窓口(都道府県の労働局・総合労働相談コーナー)への案内もフローに組み込んでおくと従業員の安心につながります。窓口の存在と連絡先を社内掲示板・社内イントラに常時掲示することも有効です。

研修と記録の実装:制度を形骸化させないために

就業規則に条項を追加しても、現場への周知と研修がなければ制度は機能しません。最低でも年1回、全従業員を対象にカスハラ対応に関する研修を実施することをお勧めします。内容は『カスハラとクレームの違い』『初動で取るべき行動』『記録の書き方』『相談窓口の使い方』の四点を軸にすると実務に直結します。管理職向けには加えて、部下から報告を受けた際の対応姿勢と不利益取扱い禁止の意味を丁寧に伝える内容を盛り込みます。

記録管理は紙でも電子でも構いませんが、時系列で検索できる形式が望ましいです。カスハラ事案の記録を蓄積することで、特定の顧客・曜日・時間帯にリスクが集中しているといった傾向が見えてきます。傾向を把握できれば、人員配置の調整や事前のお断り対応など、予防的な手を打つことができます。記録の保管期間は少なくとも3年を目安とすることが一般的です(民事上の請求権の時効を踏まえた目安ですが、個別の状況は専門家にご確認ください)。

Kabauを使った記録・運用管理のサポート

Kabauは、会社ごとの就業規則の内容・現在の対応フロー・過去の申し出履歴を登録しておくことで、実際の相談場面で『自社の規則の何条に相当するか』『前回の同類事案ではどう対応したか』を整理する補助ができます。担当者が記録を入力すると、次回の対応時に経緯を確認しながら判断材料を引き出すことが可能です。

特に役立つのは、研修資料の叩き台作成と、就業規則の改定履歴の管理です。規則を一度設けた後も、法令の改正や社内事案の蓄積に応じて定期的に見直しが必要です。Kabauに改定前後の条文を登録しておくことで、どの時点でどのような内容だったかを後から確認できます。ただし、Kabauはあくまで情報の整理と補助を担うものであり、就業規則の最終的な内容確認や法的判断は専門家に委ねることが前提です。

出典(一次情報・2026年8月25日に確認)

厚生労働省「令和8年10月1日からハラスメント対策が強化されます」(PDF)https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001662576.pdf

東京都「カスタマーハラスメント防止条例」https://www.hataraku.metro.tokyo.lg.jp/kaizen/ryoritsu/kasuhara/index.html

本文中の施行日・義務の性質・対象範囲の記述は上記にもとづいています。措置義務の施行日は2026年10月1日で、施行期日を定める令和8年政令第17号により確定しています。2025年6月11日は改正法(令和7年法律第63号)の公布日であり、施行日ではありません。

Kabauはこう答えます

サンプルの会社情報を覚えた状態での、回答のイメージです。数値や規程の内容は説明用の例です。 Kabauの答えは一般的な情報の整理であり、個別の法的助言ではありません。

よくある質問

就業規則にカスハラ条項を追加する場合、労働基準監督署への届出は必要ですか。

常時10人以上の従業員を使用する事業場は、労働基準法第89条の規定により、就業規則を作成し所轄の労働基準監督署に届け出る義務があります。既存の就業規則を変更した場合も同様に届出が必要です。また、就業規則の変更にあたっては、同法第90条に基づき、労働者の過半数を代表する者の意見を聴取する手続きが必要です。届出書類の様式や手続きの詳細は、所轄の労働基準監督署または社会保険労務士にご確認ください。

カスハラの定義が曖昧で、どこからが対応を断ってよいラインなのか判断が難しいです。

厚生労働省のカスタマーハラスメント対策企業マニュアル(2022年2月公表)では、『顧客等からのクレーム・言動のうち、要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なもの』をカスタマーハラスメントと整理しています。要求の内容(正当か否か)と手段・態様(社会通念上相当か否か)の二軸で判断するのが基本的な考え方です。ただし、個別の事案がこの基準に当たるかどうかの判断は状況により異なります。本ページは一般的な情報提供を目的としており、個別の法的判断や書類作成の代行ではありません。具体的な対応については弁護士や社会保険労務士にご相談ください。

小規模な会社でも就業規則のカスハラ対策を整備する必要がありますか。

常時10人未満の事業場は就業規則の作成・届出義務はありませんが、対応の基準を社内ルールとして文書化しておくことは従業員への安心感と現場判断の一貫性につながります。口頭の申し合わせだけでは、担当者が変わったときや事案が複雑になったときに対応が属人化しやすくなります。規模にかかわらず、対応フローと記録の仕組みを整えることから始めることをお勧めします。

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